2010年11月14日日曜日

保守党議員が持つ経済への謬見

現在のヨーロッパ諸国の政府は財政政策の効果を過小評価しているようである。かれらは歳出をカットし、増税をすれば収支が改善すると思い込んでいるようだ。そのような緊縮財政は不景気の際にはその国の景気を悪化させるだけで、GDPを低下させ、結果として政府の負債を増やしてしまうだけなのである。英国も現在のようなオズボーン路線をとれば間違いなく2011年のGDP成長は惨めなものになってしまうだろう。イギリス国民は保守党の経済政策が誤りであることを見抜き、政権をチェンジさせなければならない。そんな中でガーディアン紙でよい記事"The myths swallowed by George Osborne"をみつけた。この記事のライターであるGeorge Irvinさんによれば、オズボーンやキャメロンをはじめとする保守党と彼らのアドバイザーらが以下のような典型的な謬見:
  1. 借金返済は国のコスト
  2. 返済は現在そして未来の納税者によって行われる
  3. 英国が債務不履行になる
  4. 政府は常に収支の均衡をさせなければならない
  5. 資金調達のコスト(すなわち政府の負債)が経済成長を上回る
を持っているという。私はこのIrvinさんの意見を支持する。英国債の80%は国内のマーケットからの調達によって発行されており、国債保有者にとっては金融資産なのである。すなわち年間420億ポンドのペースでの政府の負債のうち340億ポンドは資産として台帳にのるのだ。作家の三橋貴明氏によれば19世紀のイギリスはナポレオン戦争に参加していたため政府負債をGNPの約2.5~3倍にまで増やしていたがべつに破綻はしなかったらしい。その理由は負債が全てポンド建てだったからである。国家には通貨発行権がある。
As long as Britain has its own currency, it has the power to print money. Anyone who doesn't believe this should read up on quantitative easing, the main form of printing money at present. Governments can only go broke if they have incurred debts in another currency; ie if they cannot finance their external current account deficit (which includes interest paid abroad).
外貨建ての負債の場合に限り政府がデフォールトになるのだ。政府の負債と、家計や企業の負債は全く違うものなのだ。

2010年11月9日火曜日

The discovery of a massive neutron star

最近のホットな宇宙物理学の話題というとホットジュピターの発見などが挙げられる。また、遠くない将来に重力波の検知もなされるかもしれない。今回Nature online (27/Oct/2010)に掲載された記事は太陽の2倍の質量を持つ中性子星の観測である。中性子星は、超新星が自身の重力にてつぶれた天体であり、主に中性子からなる。中性子はフェルミオンであるから、多くの中性子からなる系では中性子同士はパウリの排他原理によって異なるエネルギー状態をとらざるを得ない。この量子効果によって中性子星がさらにつぶれることがないわけである。極めて熱く、太陽の約1.6倍程度の質量をもち半径は約10kmである。太陽質量の2倍~3倍の天体は、中性子星ではなくクウォークスターと考えられている(太陽質量のおよそ1.4倍以下は白色矮星)。
中性子星は、超新星がつぶれるときの軌道角運動量保存則のために高速で回転している(周期おおよそ2 msec to 20 sec)のも一つの特徴だ。この回転によってパルス波や強烈な磁場(1 to 100 MTesla or 10 to 1000 Giga gauss)が生成されると考えられているが、詳細についてはさらなる研究が必要である。また、この中性子の系の状態方程式の決定は、一般相対論も絡んでくるので難しい。(Shapiro delay という効果が質量決定に使われるらしい。あとで時間があるときに調べるつもりである。)
中性子の内部構造の考察も難しい。上記のオンラインNatureにも出てくるPaul Demorest は「中性子星という名称ははmisnomer だ」とのべている。Rival modelによれば中性子内部は自由クウォークもしくはハイペロンであるらしいが今回の中性子星の発見でやや後者が不利になったようだ。

2010年11月7日日曜日

オバマ敗北と米国のその後

今月初旬の米国中間選挙における民主党敗北を受けて、オバマ大統領はその責任をとる声明を出している。米国大衆は一向に改善しない失業率の不満を今回の中間選挙であらわしたようだが、決してオバマの政策自体が悪かったわけではないのだ。約10%の失業率は2008年のリーマンショックのダメージが大きすぎたためであり、基本的には共和党ブッシュ政権の経済政策に誤りがあったからなのである。2008年の大統領選ののちオバマは大規模な景気刺激策をうった。もし、彼が政府支出をおこなわなかったなら今よりも失業者は増えていたはずだ。(クルーグマンは景気対策の規模は小さかった。もっと大規模な財政支出をすべきだったと述べている。)
オバマ政権でなされた国民皆保険制度やstudent loan programme(従来の私的貸し出し業者からの奨学金を廃止し、連邦政府が学生の学資を援助する仕組み)は極めて社会民主主義的な政策であり、国民の社会権を尊重するものだった。また、今月5月の金融改革法案はウォール街でマネーゲームをする連中へのけん制になり、金融資本主義からの脱却を図っていた。これは米国民にとっては歓迎すべきことであり、右から左へお金を回すだけで金儲けをしているような業種に規制をかけて、本当にまじめに働いている人たちへお金をまわせるようにし、結果として米国のものづくり産業を再興するためには大事なことだった。
けれども米国民は共和党を選んでしまった。共和党勝利を受けてオバマはその党との協議を余儀なくされるだろう。緊縮財政を唱えていた共和党はオバマ大統領に政府支出の削減を求めるはずだ。となれば米国が2番底の不況を迎えるのは必死だ。米国民は自らの手で自国を衰退させることになりそうだ。
これが現代における大衆民主主義である。物事の価値・正誤判断は大衆には本来難しいのだ。しかも現代においては社会が複雑になり、その傾向は益々高まっているといえる。にもかかわらず国家の大事な意思決定を彼らにゆだねるというのは現代民主主義が抱える一つの問題だ。

2010年10月29日金曜日

そんな簡単な世の中ではないはず

線形代数は物理において広く応用されている学問領域であり、これを使うことで世界の動きをかなり精度よく描写することが可能と考えられている。実際、量子力学は線形な方程式と関数空間をもとにして成り立っているし、Einstein の特殊相対論はSO(3,1)というLorentz 群による変換に対して場や座標などがコバリアントになることを要求している。
だが世の中全てが線形な形で表されるわけではないと思われる。そこまで世界は単純ではないはずだ。Einstein による重力理論すなわち一般相対論はその典型である。それ以外にも単に線形代数を利用するだけでは表現できないような現象はあるはずだ。人類が宇宙へ進出し、未知の物体や現象と遭遇すればさらにその非線形な理論の必要性は高まるはずだ。

2010年10月10日日曜日

買取オプション

戦後最大の歳出カットを目論んでいたジョージ・オズボーン財務相だったが、英国の景気後退予測を受けて、Bank of England (以下BOE)の金融緩和に対して肯定的になったようだ。オズボーンは2000億ポンドの債券買取プログラムを容認するだろう。これは世界的な金融緩和の傾向と競合しそうだ。例えば日本では日銀が5兆円規模の買取オプションを決めているし、米国でもFed がさらなる資産買取を宣言している。この結果輸出関連による外需増加を期待できない。

この需要が不足している状況での金融政策の景気浮揚効果に対しては疑問符がつく。米国でも、ジョセフ・スティグリッツが述べているようにFedでプリントされたお金が投資に回らないのだ。金融政策による雇用改善は期待薄であり、スティグリッツは需要喚起のための大規模な財政支出が不可欠と考えている。(もちろん量的緩和の効果は0ではないが。)一方英国では、債券市場を見る限りでは長期金利の上昇は低いとみる。民間の貯蓄が大きく、英国国債の多くは国内で消化されている(国債の7割)。英国はむしろデフレの懸念のほうが大きく、実際、9月の住宅価格は前月比で-3.6%である。

オズボーン自身は古典的な経済理論に依存しているようで、巨額の政府負債が長期金利の高騰と、信用リスク下落やマーケットの混乱を招くと考えているのかもしれない。消費税の増税も経済へのダメージは低いととらえているようだ。けれども、以前触れたように、現在の状況を見る限りでは古典論よりもケインジアンの方がよりよく現象を説明しているし、後者の描く有効需要こそ最善の打開策であることは明らかだ。