2010年11月28日日曜日

アイルランドへの財政援助

過去にも述べたかもしれないが、2010年に入ってギリシャをはじめとするPIGS諸国の債務問題が深刻化し経済が悪化しているのは、これらの国々がユーロに加盟していることがその原因の一つだ。財政危機のためIMFやEUに約850億ユーロもの支援を要請しているアイルランドだが、1999年にユーロを導入する前は経常収支が黒字だったのだ。輸出が好調な理由は為替の変動の恩恵を受けることができたからだと考えられる。ゆえにユーロ加盟後はドイツのような強い経済の国と同じ為替レートで貿易が行われるために競争力が低下し、現在に至るまで毎年経常収支赤字となっているのだ。特にサブプライムショックとそれに続く2008年の米国金融危機の年度にはGDPの約-6%にまで経常収支が悪化したのだ。
 景気がよいときは、アイルランドの銀行はユーロの為替を利用して他のEU諸国の銀行から多くの借り入れをし不動産などに投資ができる。しかし一旦バブルがはじけるとこれらの銀行は多大な損失を被る。同国政府はマーケットの信用を得るために政府支出を削るといっているが、投資家達はその政策がアイルランド経済をさらに悪くするとわかっている。実際、ブルームバーグによれば今月26日の時点でアイルランド国債の長期金利が9.19%まで上昇したのだ。たとえIMFやEUが財政支援を決めたとしても本質的な問題点が取り除かれたわけではないのである。不況下で歳出カットをすればその国は恐慌に陥ってしまう。失業率の上昇や賃金カット、さらには増税で国民は生活に苦しみできるだけ消費を抑えようとする、結果国のGDPは低下してしまうのだ。これにより政府負債の対GDP比は悪化するだろう。解決策としては、ユーロゾーン全体としての早急な金融政策の統合、もしくはアイルランドがユーロから離脱し独自通貨に戻すことであると考えられる。

2010年11月14日日曜日

保守党議員が持つ経済への謬見

現在のヨーロッパ諸国の政府は財政政策の効果を過小評価しているようである。かれらは歳出をカットし、増税をすれば収支が改善すると思い込んでいるようだ。そのような緊縮財政は不景気の際にはその国の景気を悪化させるだけで、GDPを低下させ、結果として政府の負債を増やしてしまうだけなのである。英国も現在のようなオズボーン路線をとれば間違いなく2011年のGDP成長は惨めなものになってしまうだろう。イギリス国民は保守党の経済政策が誤りであることを見抜き、政権をチェンジさせなければならない。そんな中でガーディアン紙でよい記事"The myths swallowed by George Osborne"をみつけた。この記事のライターであるGeorge Irvinさんによれば、オズボーンやキャメロンをはじめとする保守党と彼らのアドバイザーらが以下のような典型的な謬見:
  1. 借金返済は国のコスト
  2. 返済は現在そして未来の納税者によって行われる
  3. 英国が債務不履行になる
  4. 政府は常に収支の均衡をさせなければならない
  5. 資金調達のコスト(すなわち政府の負債)が経済成長を上回る
を持っているという。私はこのIrvinさんの意見を支持する。英国債の80%は国内のマーケットからの調達によって発行されており、国債保有者にとっては金融資産なのである。すなわち年間420億ポンドのペースでの政府の負債のうち340億ポンドは資産として台帳にのるのだ。作家の三橋貴明氏によれば19世紀のイギリスはナポレオン戦争に参加していたため政府負債をGNPの約2.5~3倍にまで増やしていたがべつに破綻はしなかったらしい。その理由は負債が全てポンド建てだったからである。国家には通貨発行権がある。
As long as Britain has its own currency, it has the power to print money. Anyone who doesn't believe this should read up on quantitative easing, the main form of printing money at present. Governments can only go broke if they have incurred debts in another currency; ie if they cannot finance their external current account deficit (which includes interest paid abroad).
外貨建ての負債の場合に限り政府がデフォールトになるのだ。政府の負債と、家計や企業の負債は全く違うものなのだ。

2010年11月9日火曜日

The discovery of a massive neutron star

最近のホットな宇宙物理学の話題というとホットジュピターの発見などが挙げられる。また、遠くない将来に重力波の検知もなされるかもしれない。今回Nature online (27/Oct/2010)に掲載された記事は太陽の2倍の質量を持つ中性子星の観測である。中性子星は、超新星が自身の重力にてつぶれた天体であり、主に中性子からなる。中性子はフェルミオンであるから、多くの中性子からなる系では中性子同士はパウリの排他原理によって異なるエネルギー状態をとらざるを得ない。この量子効果によって中性子星がさらにつぶれることがないわけである。極めて熱く、太陽の約1.6倍程度の質量をもち半径は約10kmである。太陽質量の2倍~3倍の天体は、中性子星ではなくクウォークスターと考えられている(太陽質量のおよそ1.4倍以下は白色矮星)。
中性子星は、超新星がつぶれるときの軌道角運動量保存則のために高速で回転している(周期おおよそ2 msec to 20 sec)のも一つの特徴だ。この回転によってパルス波や強烈な磁場(1 to 100 MTesla or 10 to 1000 Giga gauss)が生成されると考えられているが、詳細についてはさらなる研究が必要である。また、この中性子の系の状態方程式の決定は、一般相対論も絡んでくるので難しい。(Shapiro delay という効果が質量決定に使われるらしい。あとで時間があるときに調べるつもりである。)
中性子の内部構造の考察も難しい。上記のオンラインNatureにも出てくるPaul Demorest は「中性子星という名称ははmisnomer だ」とのべている。Rival modelによれば中性子内部は自由クウォークもしくはハイペロンであるらしいが今回の中性子星の発見でやや後者が不利になったようだ。

2010年11月7日日曜日

オバマ敗北と米国のその後

今月初旬の米国中間選挙における民主党敗北を受けて、オバマ大統領はその責任をとる声明を出している。米国大衆は一向に改善しない失業率の不満を今回の中間選挙であらわしたようだが、決してオバマの政策自体が悪かったわけではないのだ。約10%の失業率は2008年のリーマンショックのダメージが大きすぎたためであり、基本的には共和党ブッシュ政権の経済政策に誤りがあったからなのである。2008年の大統領選ののちオバマは大規模な景気刺激策をうった。もし、彼が政府支出をおこなわなかったなら今よりも失業者は増えていたはずだ。(クルーグマンは景気対策の規模は小さかった。もっと大規模な財政支出をすべきだったと述べている。)
オバマ政権でなされた国民皆保険制度やstudent loan programme(従来の私的貸し出し業者からの奨学金を廃止し、連邦政府が学生の学資を援助する仕組み)は極めて社会民主主義的な政策であり、国民の社会権を尊重するものだった。また、今月5月の金融改革法案はウォール街でマネーゲームをする連中へのけん制になり、金融資本主義からの脱却を図っていた。これは米国民にとっては歓迎すべきことであり、右から左へお金を回すだけで金儲けをしているような業種に規制をかけて、本当にまじめに働いている人たちへお金をまわせるようにし、結果として米国のものづくり産業を再興するためには大事なことだった。
けれども米国民は共和党を選んでしまった。共和党勝利を受けてオバマはその党との協議を余儀なくされるだろう。緊縮財政を唱えていた共和党はオバマ大統領に政府支出の削減を求めるはずだ。となれば米国が2番底の不況を迎えるのは必死だ。米国民は自らの手で自国を衰退させることになりそうだ。
これが現代における大衆民主主義である。物事の価値・正誤判断は大衆には本来難しいのだ。しかも現代においては社会が複雑になり、その傾向は益々高まっているといえる。にもかかわらず国家の大事な意思決定を彼らにゆだねるというのは現代民主主義が抱える一つの問題だ。