2010年9月29日水曜日

財政危機という宣伝

政府の負債がその国の名目GDPの何%になるかというような単純な尺度でもって、その国の財政健全度を測ろうとする傾向が日本を含め先進諸国で強くなってきていると思うのは私だけだろうか。今のヨーロッパは、ギリシャやアイルランドの財政危機を目の当たりにし、物事の本質を見ずにただ歳出カットや国民の負担増を求めたがる。(ユーロシステムは、金融と財政の分離という致命的な欠陥を有しているのだ。(Klugの記事参照のこと)それこそが現在のギリシャをはじめとする欧州の財政危機だというのに・・・)ユーロに加盟していない英国でさえ今年の6月に、保守党キャメロン首相の下、オズボーン財務大臣が財政悪化を口実に緊縮財政プランを打ち出したわけである。これによって2012年までにイギリスが景気の2番底に向かう確率が高まり、失業率の悪化とそうまって社会情勢が不安定になりそうだ。ノーベル賞受賞者であるジョセフ・スティグリッツはこのオズボーンの緊縮プランは明らかな誤りとして非難している。

負債とは簡単に言えば借金のことだ。借金なのだから誰かからお金を借りていることになる。では、日本の場合は政府は誰からお金(2010年9月現在で約800兆円)を借りているのだろうか?実はこの点が全くといっていいほど議論されないのだが、日本国債の保有者の大多数は国内の投資家なのである。その利払いは国内に流れ、国内が潤うことになるのだ。言い換えれば、家族内でお金を回しあっているに過ぎないのである。現在中国政府が日本国債を買い始めているのだが、これは日本の国益に反する。中国政府に利払いがなされるので、その分のお金が中国へ流出するのだ。(*おかしいと思わないだろうか?日本が仮に財政危機であり、10年物の国債が今にも暴落するのだとしたらそんな危険な金融商品をなぜ中国政府が買おうとするだろうか?しかも米国債を売ってまでして。実際に長期金利は1%台であり、国債価格は極めて安定である。)

財政規律を重んじる人たちはバランスシートの片方だけを見て財政再建を訴えるのだが、資本主義においては’誰かの負債は誰かの資産である’がゆえに、政府が負債を増やしているということは別の経済主体が資産を増やしていることを意味しているわけだ。財政規律派はこの資産の部を無視している。日本の家計の金融資産は1400兆円と巨額だ。トータルでは日本は世界最大の対外純債権国、すなわち他の国にいっぱいお金を貸し付けているのである。多額のODA、IMF出資額世界第2位、米国債保有額世界1位もしくは2位、米軍への思いやり予算毎年5兆円などなど。これだけの出資が可能であるのに、どうして日本が財政危機なのだろう?

菅内閣は財務省主導の下、消費税増税にはしるかもしれない。 その際に財政危機という宣伝文句は良い口実になる。だが、主権者はもっと注意深くなるべきだ。なぜ法人税は減税されるのか。なぜ中国が日本国債を買うのか。なぜ、財政支出に否定的な一方で為替介入には積極的なのか。

2010年9月24日金曜日

家計の負債と政府の負債

家計の負債と政府の負債を混同してはならないということだ。後者は通貨発行権を有しているから、自国通貨建ての負債ならば債務不履行になることはないのだ。簡単に言えばバンクノートをプリントして得たお金で借金を返済すれば良いのである。もちろんインフレ懸念は出るだろうが、緩やかなインフレは資本主義にとって望ましい、というのもそのようなインフレでは所得レベルの向上と需要の回復さらには政府の負債の減少が期待されるからである。メディアは政府の財政危機を煽り財政支出削減を叫ぶが、これらの情報に惑わされるべきではない。

ノーベル経済学賞受賞者であるジョセフ・スティグリッツの発言にもあるように、緊縮財政は国を衰退させるだけである。政府が支出を削減すればそれだけGDPは減るし、需要が減少して景気が後退する。需要低下は価格の下落を招き、デフレスパイラルに陥ってしまう。結局、不景気から抜け出せず、政府の負債は増える結果に終わってしまう(政府の負債は対GDPで算出されるので、分母であるGDPが減ることで負債が悪化してしまう)。不況下では需要が不足するので政府による有効需要喚起が経済の基本だ。

保守党政権になり英国が緊縮路線に走り、結果として景気と社会情勢が悪化するのは目に見えている。 英国はユーロゾーンと異なりBank of England が金融政策を採れる(すなわち、お金をすることで負債返済が可能)わけであるから、ギリシャやスペインなどとは根本的に対策を異にするべきであるのに。増税路線をとるにしても、所得水準の高い層や資本家から多く徴収することで税収減をある程度補えるはずだが、トーリーはそれをとらないかもしれない。また、postal privatisation をはじめとする幾つかの公的セクターの民営化も懸念材料だ(ロイヤルメールに関してはどこまで公的部門から切り離すのかは議論されているが)。これによって多くの公務員がリストラされ失業率の悪化を招いてしまう。