2010年10月29日金曜日

そんな簡単な世の中ではないはず

線形代数は物理において広く応用されている学問領域であり、これを使うことで世界の動きをかなり精度よく描写することが可能と考えられている。実際、量子力学は線形な方程式と関数空間をもとにして成り立っているし、Einstein の特殊相対論はSO(3,1)というLorentz 群による変換に対して場や座標などがコバリアントになることを要求している。
だが世の中全てが線形な形で表されるわけではないと思われる。そこまで世界は単純ではないはずだ。Einstein による重力理論すなわち一般相対論はその典型である。それ以外にも単に線形代数を利用するだけでは表現できないような現象はあるはずだ。人類が宇宙へ進出し、未知の物体や現象と遭遇すればさらにその非線形な理論の必要性は高まるはずだ。

2010年10月10日日曜日

買取オプション

戦後最大の歳出カットを目論んでいたジョージ・オズボーン財務相だったが、英国の景気後退予測を受けて、Bank of England (以下BOE)の金融緩和に対して肯定的になったようだ。オズボーンは2000億ポンドの債券買取プログラムを容認するだろう。これは世界的な金融緩和の傾向と競合しそうだ。例えば日本では日銀が5兆円規模の買取オプションを決めているし、米国でもFed がさらなる資産買取を宣言している。この結果輸出関連による外需増加を期待できない。

この需要が不足している状況での金融政策の景気浮揚効果に対しては疑問符がつく。米国でも、ジョセフ・スティグリッツが述べているようにFedでプリントされたお金が投資に回らないのだ。金融政策による雇用改善は期待薄であり、スティグリッツは需要喚起のための大規模な財政支出が不可欠と考えている。(もちろん量的緩和の効果は0ではないが。)一方英国では、債券市場を見る限りでは長期金利の上昇は低いとみる。民間の貯蓄が大きく、英国国債の多くは国内で消化されている(国債の7割)。英国はむしろデフレの懸念のほうが大きく、実際、9月の住宅価格は前月比で-3.6%である。

オズボーン自身は古典的な経済理論に依存しているようで、巨額の政府負債が長期金利の高騰と、信用リスク下落やマーケットの混乱を招くと考えているのかもしれない。消費税の増税も経済へのダメージは低いととらえているようだ。けれども、以前触れたように、現在の状況を見る限りでは古典論よりもケインジアンの方がよりよく現象を説明しているし、後者の描く有効需要こそ最善の打開策であることは明らかだ。