2011年4月18日月曜日

リビア内戦(3)

英米仏が、リビア上の飛行禁止区域の設定などを定めた国際連合安全保障理事会決議1973 (安保理決議1973)を経て今年3月19日に有志連合という形でついに本格的にリビア内戦への軍事介入を始めたが、主要各国の足並みはそろわない。国連決議案1973にドイツ、ロシア、中国、ブラジルそしてインドは棄権。BRICS首脳会議ではNATOのリビア空爆に反対し、あくまでも平和的解決を求める声明を出した。ドイツ国内でも軍事行動には賛否両論である。

一方で、米国のオバマ大統領、仏国のサルコジ大統領そして英国のキャメロン首相は、ガダフィ軍によるミスラタ市民への殺戮を「中世の包囲攻撃である」とし、、 共同署名で「もし世界が(ガダフィ軍の残虐な行為を)容認するようなことがあれば、それは途方もない裏切り行為となるだろう」と声明を出している。

だが、NATO加盟国の多くが空爆に消極的だ。アフガニスタン抗争における空爆で戦費がかさんだためにリビアにまで軍事行動をかける余裕が無いのだろう。またPIIGS諸国の財政問題とそれへのECBの対応もこれに関係していると思われる。(自国に中央銀行がないユーロ圏の場合は、お金を刷って自国通貨の供給量を高めるという政策がとれないのである。それがその国の財政政策に影響を及ぼすのは必然だ。)その結束の弱まったNATOがカダフィ軍の補給路を叩いたのだが、依然としてその軍隊の態勢は崩れていないようである。というのも砂嵐がNATO軍の空爆に対する防護壁になっているからで、カダフィ軍はアジュダビヤー(人口15万の都市)の西部ゲートへの攻勢を強めている。先月アジュダビヤーはガダフィ軍によって包囲されたがNATO軍が空爆したことで、その都市を防衛することに成功した。しかしガダフィ軍による市民への無差別攻撃は続けられている。人口70万を誇るミスラタはカダフィ軍の激しい攻撃に曝され続けており、この2ヶ月の間に数百の市民が犠牲になったといわれる。前の記事でも述べたが、人口44万人のベンガジは反乱軍の拠点であり、人々はガダフィ軍の攻撃から逃れるためにベンガジへと向かっている。

ミスラタにいる反乱軍はNATOに地上部隊を派遣するよう要請している。だが国連安保理決議1973では、外国の軍隊によるリビア占領の項目を除外しているために政治家が更なる軍事行動に踏み切れないでいる。反乱軍はNATOの軍事アクションが不足していることを嘆いている。

ガダフィ大佐の生まれ故郷であるスルトにいた人の証言から、ガダフィ軍が捕虜に対して残酷な行為を行っていることがわかる。内容が恐ろしいのでこのブログでは書けない。これが真実だとすれば、これは明らかに国際法違反でありまた人道的観点からも決して許されないことだ。英国のキャメロン首相は「ガダフィ大佐が依然としてミスラタにて殺戮を行いその都市を支配下に置く意思があるのは、(私にとっては)疑いの無いことだ」、「そしてベンガジの支配権までも考えていて、もしガダフィ軍がベンガジを侵略すれば、間違いなく虐殺が起きるだろう」、「我々は市民を守るためにあらゆる手段を講じるべきである」と述べている。

カダフィ軍がクラスター爆弾を使ったという報道がされているが、簡単にそれを信じるのは危険である(リビア政府側はそれを否定している)。1990年代初頭の湾岸戦争のときには「フセイン軍が防衛のためにペルシャ湾に原油を廃棄した」などという報道がされたが、真実は米軍が誤爆したクウェートの石油精製工場やパイプラインから多量の原油が流出したことが原因であった。米軍が世界からの支持を得るために行ったでっち上げであったことがわかっている。またイラク戦争開戦の米軍の動機だった「フセイン軍が大量破壊兵器を保有している」というのは、その後のIAEAによる調査によって事実ではないことが確認されている。(同年IAEAはノーベル平和賞を得ている。)

しかしながらクラスター爆弾を使ったという証拠は、目撃者の増加と共につみあがってきているようだ。リビア政府はトリポリからジャーナリストがミスラタへ入ることを禁じている。 ヒューマン・ライツ・ウォッチは写真や軍事専門家からの証言を公開して、ガダフィ軍によるクラスター爆弾の使用の蓋然性を高めている。 ヒューマン・ライツ・ウォッチ の武器部門の主任であるスティーブ・グース氏は「ガダフィ軍はクラスター爆弾を使用し、結果として多くの不発弾がまき散らされ、多くの市民へ重大な危険性を与えている」と述べている。

クラスター爆弾の使用は100以上の国で禁止されているが、リビアはこの国際条約に署名していない。内政不干渉の原則があるとはいえ、人道的にはこのような兵器は全廃すべきだ。国際法の難しさを実感する。

2011年4月10日日曜日

リビア内戦(2)

およそ40年間リビアを統治してきたカダフィ大佐の忠臣による軍と反乱軍との戦いが今年2月15日に始まり2ヶ月を経ているが、既に先月17日に国連安保理がリビアでの軍事行動を容認する決議を採択(国連安保理決議1973 United Nations Security Council Resolution 1973)し、それに基づき英米仏を中心とした多国籍軍(ベルギー、オランダ、カナダ、デンマークなどが参加)が「オデッセイの夜明け」というリビアへの軍事作戦を開始している。決議1973の採決にはロシア、中国、ドイツ、インドそしてブラジルが棄権している。ドイツの棄権票はドイツ国内でも意見が二分されているようで、ドイツ前外務大臣のJoschka Fischerは、現外務大臣Guido Westerwelleが今回安保理決議1973に棄権したことを「スキャンダラスな過ちだ」とし、「ドイツは国連や中東での信用を失うだろう」と述べている一方で、世論はドイツ有権者の3分の2がドイツの軍事作戦参加に反対であり、Westerwelleの決断を支持している。Westerwelleは棄権票ではなく反対票を投じたかったがメルケル首相に説得され棄権としたと報じる新聞もある。

欧州中心の軍事行動は2003年のイラク戦争以来となる。3月19日には米軍のトマホークミサイル約100発がトリポリなどの軍事機関へむけて発射された。多国籍軍の指揮権はNATOに移ったが、そのNATOはリビアにおける飛行禁止区域の設定を国連決議1973によって強制し、即時停戦の要求、また加盟国へカダフィ軍からリビア市民を守るために軍事力を行使することを要請している。

南アフリカのZuma大統領がリビアのトリポリへ、停戦のための話し合いのために到着して、その後NATOによる空爆が行われた模様だ。Zuma大統領はカダフィ大佐との面会のみならず、反乱軍の拠点である人口44万人のベンガジへも訪れることになっている。

空爆はアジュダービヤ-(人口15万のリビアの都市)へ進軍する11両の戦車を破壊、またその都市の5倍の人口を誇るミズラーター郊外にて14両以上の戦車に打撃を与えた。また空爆によりカダフィ軍の補給路のための道路にクレーターができたという。

NATOの軍事作戦の指揮を執っているCharles Bouchardは 、カダフィ大佐とその軍はアジュダビヤーやミズラーター市民にも容赦ない攻撃をくわえていて、今回の空爆がカダフィ軍の兵器とその兵站機関を目標としたものだと述べている。

リビアでのオイル生産がおちこみ、たとえ反乱軍が原油生産を統治したとしても、生産量はリビア内戦前の3分の一にも満たないだろうと予想されている。今月8日には約30ヶ月ぶりに原油価格が1バレル$112を超えた。これが最近の欧州中央銀行の利上げにつながっている。