2011年8月23日火曜日

リビア内戦(7)

今年8月にイタリアが公式にNATOに対し、リビア難民の救出を要請。これはリビア内戦が始まって以来はじめてイタリアがイニシアティブをとった格好だ。それら難民はリビアから脱出し、イタリア領であるランペデューサ島(地中海にあるぺラージェ諸島の一つ)を目指していたのだと考えるのが妥当。24000人もの難民の多くは、そのランペデューサ島にいるようだ。ランペデュ-ザ島はリビアやチュニジアから最も近く、難民としてもここを目指すことが目標だったはずだ。けれども渡航力の無い船で地中海を進むのは困難を極める。多くのリビアからの難民が今なお地中海上でさまよっている可能性はある。

NATOの軍艦が、リビアからの難民をほったらかしにしていたというレポートがあったが、今年5月にNATOがそれを否定した。NATOの司令官らは当然国際条約について熟知しているはずだ。これは、海上における人命の安全のための国際条約(Solas, 1974)と呼ばれている。これは主に商船にとって最も大事な国際法の一種である。
とりわけ5章では、海上安全の観点から、政府がその国の全ての船に十分な人員を配置させることがうたわれている。

イタリア外務大臣であるフランコ・フラティーニはNATOのイタリア大使に、NATOがリビアについての現行法を修正し、リビアからの政治的避難民を救助できるようにするための議論をスタートさせるように依頼していた。イタリアは、リビアを包囲するためにいるNATO軍が難民からのSOSに知らないふりをしていた
という報告について調査するよう要請した。がイタリアも様々な意見があるようで、上院議員の北方地方の総務であるフェデリコ・ブリコーロはNATOがすべきなのはリビアに集中攻撃をかけるだけでなくリビアからの難民ボートをブロックし本国に送り返すことだと述べている。このブリコーロと言う人はかなりの右よりだと推測される。

そうしているうちに、42年間続いたカダフィ政権は崩壊したという情報が入った。反体制派が首都のトリポリをほぼ陥落させたという。トリポリの緑の広場では多くの群集が反乱軍のトリポリ入りを祝った。少し前には、人口70万のミスラタがカダフィ軍の激しい攻撃に晒されていたが何とか反体制派が形勢を逆転させた。カダフィ大佐の近衛兵士も減少し、カダフィ軍は敗北の様相が高まっている。トリポリのあちこちで体制側が戦っているが、NATOの空爆が質・量ともに5ヶ月前とは比べ物にならないくらい激烈なっていて48時間に40もの空爆ミッションがあり、体制側が圧倒されている。NATOの空爆の精度は時期と場所にたぶんに依存するのだろう。特に体制側からの対空砲火が激しい時や砂嵐があるときなどは、精度はかなり低下すると考えられる。今年4月30日にカダフィ大佐の長男であるセイフ・アラブ氏や孫がNATOの空爆で殺害された時は、それなりの精度があったのだろう。今後はカダフィ政権後のレジームのあり方がリビア情勢の焦点になってくる。

それでも体制側は地下の隠れ家やトンネルに身を潜めていて、依然として抵抗はまだあるようだ。カダフィ大佐の生まれ故郷であるスルトから22日2発のスカッドミサイルが発射されたことをNATO側が発表した。トリポリ以外でもまだカダフィ軍と反体制側とで激しい戦闘が行われている。ズリテンの南2マイルなどは激戦地区である。

 リビア国民評議会のリーダーであるムスタファ・アブドルジャリルは、真の勝利はカダフィがつかまった時だと述べた。実際に少し前にカダフィ大佐の次男であるセイフ・イスラム氏(LSEへ2億円の寄付をした人)が反乱軍のトリポリ制圧の最中に反乱軍に捕らえられたという情報が流れたが、セイフ・イスラム氏本人がトリポリ内のホテルで支持者らに健在振りを示した。米国政府高官である、ジェフリー・フェルトマンによれば正確な居場所はわからないがカダフィは依然としてリビア国内にいるという。
 
カダフィ政権のプロパガンダだったリビア国営放送は、反体制側が通信機器を押さえた際にその放送機関から立ち去ったようだ。

22日、オバマ大統領は「カダフィは金銭的にも軍事的にも消耗していて、カダフィの部隊も弱ってきている。ここ数日でリビア情勢は大きく(クライマックスへ)動き出した。トリポリ市民は自由を主張できるようになっている。米国はリビアの友人でありパートナーだが、反乱軍には暴力的なあだ討ちという手段に正義を求めることには賛同できない」という類の声明を出している。英国のキャメロン首相はカダフィ大佐が、彼がリビア国民に行ったおぞましい行為についてしっかり(法的な)正義と向き合うことを望むと述べている。キャメロンはオバマのスタンスとはやや異なり、新しいレジームがリビアの方向性を決め、同時にカダフィ大佐への処罰をも決めるべきであると考えているようだ。英国は凍結していた120億ポンド(今の為替で約1.5兆円)にものぼるリビアの資産をリリースするようだ。ドイツもそれにならい70億ポンドのリビアの資産のリリースを検討している。国連トップのバン・ギムンはカダフィ政権後のリビアへのサポートに関しての話し合いを開くとしている。

反体制側がカダフィ大佐の邸宅のあるバーブ・アジジャ地区を制圧したと言うニュースも入ってきている。

2011年7月27日水曜日

ハーパー内閣(3)

今月22日、ノルウェーの首都オスロでの爆弾テロ事件とウトヤ島で起きた無差別射撃事件で多くの市民が犠牲になった。オスロでの死者は8人、ウトヤ島での死者は68人にものぼる。ウトヤ島では与党の労働党が党大会・集会のようなものを開いていて、そこを狙われたようだ。実行犯はキリスト教原理主義者のようであり、「多文化主義によって歪められたノルウェーを元に戻すために、またイスラム教徒の侵略からノルウェーと西欧を守るために今回の犯行に及んだ」という。ノルウェーの労働党は移民政策に関して比較的寛容であり、その政策を転換させることが容疑者の犯行動機だったと考えられる。たった一人の原理主義者の無差別攻撃によって多くの市民が犠牲になったことは痛惜の極みであり、深く哀悼の意を表したい。

オスロでは今月25日にオスロで追悼集会が開かれ、イェンス・ストルテンベルグ首相が「悪は一人の人間を打ち負かすことはできるが、ノルウェー国民全体を打ち負かすことはできない」と述べ、さらに集会に参加したホーコン皇太子は「今夜、通りは愛で満たされている」と述べている。この追悼集会には少なくとも10万人が参加し、参加者は赤や白のバラで哀悼の意を表した。

もともとノルウェーは治安の良い地域が多いようで、ストルテンベルグ首相が公共交通機関を利用したり、閣僚が警護員なしにオスロの町を歩くことも珍しくは無かったようだ。今回の事件で平和な町のイメージが損なわれる可能性はある。ましてや移民の増加で、治安に多少なりとも影響を及ぼしてくるのは必至だろう。480万人の人口をほこるノルウェーでは1995年から2010年までの15年間で移民の数が3倍になり、その数が50万人にも達している。一部の有権者が移民増加政策を危惧するのも無理は無い。

カナダのスティーブン・ハーパー首相は声明を出し、カナダはこの残酷で愚かな暴力行為を糾弾し、被害者や事件を目撃された方など全ての方へお悔やみを申し上げると述べた。ハーパー首相はカナダ国民を代表し、ノルウェーのストルテンベルグ首相とノルウェー国民に弔意を表した。カナダというと多文化主義を政府が公式に採用していることで有名だ。歴史的・世界的にはインドが多文化主義の先頭を走っていたのだろうが、欧米においてはカナダが1963年の二文化主義を検討しだしたことが最初だろう。(私の立場では、米国は他民族国家ではあるが多文化主義とはいえない。あくまでも英語が事実上の国語であり、スペイン語の公用語化は一部の州を除けば行われていない。日常生活・公の活動の場面でも英語の使用が当然となっている。)その後カナダではピエール・トルドー内閣において、1971年に二文化主義の採用で英仏2ヶ国語を公用語にし、ブライアン・マルルー二ー内閣の下で1986年に雇用均等法、その2年後には多文化主義法(Canadian Multiculturalism Act)を制定し世界における多文化主義の一種のモデルとなっている。CMAでは、多文化主義がカナダの遺産であることの認識それを保護すること、カナダ原住民の権利の尊重、(依然として英仏が公用語だが)英仏以外の言語の使用の可能性、人種・宗教に関係なく権利の平等、文化的マイノリティーの人たちが彼らの文化を享受することなどが盛り込まれている。

今年5月に行われた総選挙で、下院308議席中102議席を獲得し躍進した新民主党であるが、その原動力となった党首のジャック・レートンが病気のために一時的に党代表を退くことが決まった。今月25日にレートン氏本人からその発表があり、新たな癌を患い、その治療のために代表を一時的に辞任すると決定した。レートン氏は以前から前立腺癌と闘っており、また最近では骨盤骨折から回復したばかりだった。そこに新たな癌が発見されたために、政治活動よりも治療を優先することになった。

レートン氏が会見した後にハーパー首相がレートン氏と会談し、「レートン氏のあらたな癌と闘う勇気とその決断に励まされた」と述べた。レートン氏は今年の9月中旬から下旬には下院に戻ってくると述べ、ハーパー首相もそれを待ち望んでいると述べた。

そのハーパー内閣であるが、最近は欧州に圧力をかけ始めているようだ。
ハーパー内閣はオイル産業と良い関係を保っているようで、・・ 欧州でのカナダのロビー活動は環境保護に熱心なEUの議員にとっての脅威となっている。2年前よりこの傾向が顕著になり、世界の主要都市で、カナダ外務省によって結成されたOSTがかなりの規模のキャンペーンを展開している。彼らの活動は、国際ジャーナリストに働きかけタールサンドのメディア印象を高めたり、EU議会議員のためにアルバータへの視察旅行をセッティングしたり(もちろん公費)さらには猛然と反タールサンド政策へ反対するロビー活動を行ったりと多岐にわたる。英国政府はこの活動に圧倒されて、反タールサンドへの署名を拒絶するまでにいたっている。

OSTは他の大規模石油会社とも良い関係を保ってきているようで、BPやシェルなどと何度も密かに会談し、石油産業にとって利害が一致するような政策を練っているようだ。石油会社であり、国際石油資本のひとつであるトタルは2020年までに200億USドルをアルバータのプロジェクトに注ぐことを表明している。ハーパー首相自身も2010年6月にパリでサルコジ首相との会談の後に、トタルのCEOと密かに会談している。ハーパー首相には壮大な構想があるんだなと思う。2040年までにカナダを世界のエネルギー供給国として超大国の仲間いりを果たそうということだろう。
 
カナダはEUにおけるクリーンエネルギー政策をつぶそうとしている話もあるようで、彼らのエネルギー政策として、再生可能エネルギーではなく、化石燃料、しかも原油からタールサンド(粘度の高い石油を天然に含む砂)へのシフトを狙っているとも考えられる。このタールサンドはアルバータ州にみられるどろどろの瀝青で、石油への転換はかなりコストがかかり、工場近隣の住民への影響も懸念される。

欧州側は、対抗方針を打ち出し、クリーンエネルギー使用を全面に出してカナダからのタールサンド輸入を制限するようだ。この方針は、欧州でタールサンドに投資している石油企業がその分野から撤退するのを早める結果となる。また米国においても、キーストーンXLパイプラインが、カナダのアルバート州から、アメリカのイリノイ州やオクラホマ州へ原油をおくるパイプラインであるが、現在はヒラリー・クリントン国務長官らによる再調査・検討が行われている。

2011年6月17日金曜日

リビア内戦(5)

国債刑事裁判所はカダフィ大佐とその息子セイフイスラム氏、同国諜報機関の長であるAbdullah Sanussi氏への逮捕状を請求したが、その実効性に疑問符がつく。3年前にICCは、虐殺の罪でスーダンの大統領である オマル・アルバシール氏への逮捕状を承認したのだが、アルバシール氏はアフリカ諸国を逃げまわり結局その大統領を逮捕することはできなかった。今回のカダフィ大佐らの件でも同じことが起こるのではないかと思われる。またシリアやバーレーンでも同じような恐ろしい人権侵害がなされているにもかかわらず、リビアのケースにだけICCが関与するのは政治的なバイアスがかかっているといわざるを得ない。さらに言えば、アフリカ諸国のリーダーだけがICCの標的になっていることへの不公平感もあるだろう。アジア、ヨーロッパ諸国にだって内戦やジェノサイドが行われているためである。

しかし、現在リビアでおこっているカダフィ軍によるリビア市民への残虐な行為はいかなる理由を以ってしても正当化されない。人口約70万人のミスラタがカダフィ軍の激しい攻撃にさらされていて、2月15日の抗争開始から2ヶ月足らずで数百の市民が犠牲になっていることは既に書いた。そしてミスラタにいる反乱軍がNATOに援護を要請していることも周知の通りである。ミスラタにいる反乱軍はカダフィ軍との交戦の後に、カダフィ軍兵士が撤退の際に落としていった弾薬や武器を反乱軍のものとして活用している。

ミズラーターへの容赦ない攻撃は今もなお続いている。4月中旬からその都市へのカダフィ軍の攻撃が激しくなっていて、四方八方から攻撃をかけているようだ。そのため反乱軍は、防護壁や要塞を造りながら必死で防衛に当たりつつより一層のサポートをNATOに対して要請している。NATOはこの要請を無視していてこれが反乱軍の不満の要因になっている。NATOとの連絡係であるFathi Bashagaによれば、ベンガジにある司令塔へアパッチを投入しカダフィ軍と交戦するよう要請しているが回答を留保されているようだ。国連決議1973ではアパッチを投入できるだけの法的根拠となりえないと考えられるが、フランス軍と共に結局イギリスは6月上旬に4機のアパッチをリビア内戦へ投入したようだ。そしてフランスのメディアによれば、14のターゲットの破壊などそれなりの戦果もあげている。

それでもなお反乱軍のフラストレーションは減っていない。NATO側はミスラタ西方のカダフィ軍がミスラタへ大規模な攻撃を加えることが可能かどうかは明確ではないなどと悠長なことを言っているくらいである。それだけNATOの認識が甘いかもしくは大規模な空爆ができないことの口実としてそのようなことを言っているのであろう。また、NATO司令官らと反乱軍のコミュニケーション不足・連携不足で一般人が戦闘に巻き込まれてしまう懸念が高まっている。

カダフィ大佐に忠実なる学生リーダーがイタリアにて逮捕された模様。その学生リーダーは、リビア内戦における反乱軍の外交の代表であるアブドゥル・ラフマン・シャルガムを暗殺しようと企て、さらにはローマにあるリビア大使館を襲撃する計画も立てていたようである。そのリーダーの名はNuri Ahusainであり、イタリア国内でのリビア学生連合の長であり、anti-terrorist police によって彼の自宅にて逮捕されたようだ。Ahusain氏をリーダーとする犯行グループは十数名いるようであり、そのうちのAhusain氏のほかの2名が逮捕されている。シャルガム氏は2000年から2009年までカダフィ体制の外務大臣であり国連大使も務めていたが、今年2月25日に離反し、反体制側へついた人である。今年5月30日に記者会見の場に姿を現していた。

2011年6月3日金曜日

ハーパー内閣(2)

今年3月にステファン・ハーパー内閣への不信任決議案が156対145で可決され、ハーパー首相は下院を解散。今年5月上旬に下院の選挙が行われた。

選挙前の政党支持率はハーパー首相率いる保守党が37%、新民主党が30.6%、野党の自由党が22.7%の支持を得ていた。保守党以外の3党は2,3年以内に緊縮に舵をきることを公約にしている。過去に政権の座についたことのない新民主党は法人税増税と政府支出の増加(中福祉中負担というのが適切だろうか? トロント生まれのハーパー氏はこれを批判しているのでハーパー氏にとってはこれでも財政出動が足りないということなのだろう)、保護貿易さらにはCO2排出削減のための貿易システム構築などを掲げる。ハーパー首相は選挙期間中に他党への激しいネガティブキャンペーンを展開し、保守党こそがカナダ国民にとって最善の選択であると主張している。ハーパー内閣のその他の政策としては中絶禁止法案の可決(目下のところカナダでは中絶は合法とされている)や軍需産業への支出拡大が挙げられる。さらにはこれまでは政党へは個人献金だけが許され、政党への企業献金は禁止されていたがこれについての条件緩和なども行われる。


2006年に保守党が与党になって以来、ハーパー内閣は適切な経済政策をとってきた。個人消費を促すために、消費税の段階的引き下げを行ってきた。同国の産業にとって不利となるClimate change legislationを凍結してきた。また2008年の米国の金融危機の影響で多くの先進諸国の経済が悪化していく中、ハーパー内閣は政府の負債を大幅に増やす積極財政を継続させカナダ経済をリセッションから抜け出すことに成功させており、同国経済は先進国の中で極めてよい状態にある。
ハーパーはカナダのジョージ・W・ブッシュだと主張する人たちもいるのだが、明らかに経済政策において両者は異なる。ブッシュやレーガンが新自由主義で貧富の格差拡大や、富裕層優遇政策、挙句の果てにはサブプライムショックや金融危機などを起こし米国の失業率を10%にまで増加させたのに対し、ハーパーは積極財政にて経済を活性化させている。

注目の選挙結果は保守党が下院308議席中167議席を獲得し勝利、102議席を獲得した新民主党は最大野党になった。選挙前は77議席保持していた自由党は34議席と大幅に議席数を減らした。自由党党首のマイケル・イグナティエフ氏は敗北を認めている。トロントより出馬したイグナエフ氏自身も落選してしまった。4議席獲得するに留まったBloc Quebecoisも惨敗であり、その党首も落選している。(党首落選は2007年でのオーストラリアでの選挙を彷彿とさせる。)しかしながら獲得議席では保守党が約40%であったのに対し、自由党は約20%と、議席の差ほどには差がついていないことも留意しなければならない。

公約が実行に移されるかどうかだが、ハーパー内閣が消極的であった環境法への対応が気になるところである。前回述べたように、アルバータは世界第2位の石油埋蔵量をほこる。環境法の可決は石油輸出産業にとってマイナスになるためカナダの国益のためには可決を避けたいのだろう。


国際エネルギー機関(IEA)によれば2008年のカナダにおける原油産出量はおよそ100メガトン(Mt)であり米国の40%、日本の産出量の300倍に相当する。米国は人口が多いために原油の消費量も多く、輸出量は1.4メガトンとオーストラリアの1割程度しかない。それに対してカナダはおよそ70メガトンの原油を輸出できる資源大国である。またノルウェーの原油産出量がカナダに匹敵する(約100メガトン)ことは注目に値する。ノルウェーは産出量の9割にあたる90メガトンもの原油を輸出している。これがノルウェーがユーロに非加盟である理由かもしれない。もしユーロに入ってしまうと通貨下落のメリットを受けることができないので原油輸出に不利に働くのである。ノルウェーはかなりの貿易黒字国であり、その理由が今までわからなかったがこれが一つの要素であるといえる。

2011年5月26日木曜日

リビア内戦(4)

今年5月11日にカダフィ大佐が国営テレビ(Libyan state television)に出演し、共演者である部族指導者らによってカダフィ軍の勝利を祈願されたようだ。カダフィ大佐が公の場に姿を現すのは4月30日以来である。

NATOがカダフィ軍の補給路をたたいたとしてもそれらは勝敗の決定要因にはなっていない模様だ。けれども今年5月14日に、カダフィ大佐の妻であるサフィア氏と娘のアイシャ氏がリビアの代表者と共にチュニジアに入り、同国南部のジェルバ島(Djerba)に滞在しているという情報が入ってきている。一方アルジャジーラは、「チュニジア内務省がカダフィ大佐の妻と娘のチュニジア滞在を否定した」と報じている。このことからもカダフィ側も決して万全というわけではないことがわかる。

足並みが乱れているとはいえNATOは空爆を継続するようだ。今年4月30日にトリポリなどを爆撃したが、この空爆でカダフィ大佐の息子(Saif al-Arab セイフアラブ氏)や孫が死亡したと言われているが定かではない。カダフィ大佐は息子の葬儀には出席しなかったが、これは同氏がセキュリティに細心の注意を払っているためだという。それでも自分の息子の葬式に出席しないのはいかがなものかとトリポリにいるカダフィ体制の支持者も疑問を抱いている。LSEがカダフィ大佐の次男であるセイフイスラム氏から多額の寄付金(約2億円)を受け取っていたことは過去に述べたが、セイフイスラム氏は健在のようだ。

国際刑事裁判所(The International Criminal Court; ICC)がカダフィ大佐やその息子、その国の諜報機関などに逮捕状を出すことを検討しているようだ。これにより国連加盟国はもし彼らがその加盟国の領域に入れば彼らを逮捕することが要求されるようになるだろう。カダフィ大佐の妻と娘がチュニジア入りしたのはチュニジアがICC締約国ではないことと関係があるのだろうか。

その数時間後にトリポリとその周辺への空爆を行ったようだ。だがNATOによる空爆は精度が低く、この空爆自体にリビア国民を守るだけの効果があるのか疑問である。むしろこの空爆が罪無きリビア市民の生命を脅かしているという事実も否定できない。NATOの元少将であるChris Parry氏は、NATOによるリビアにおけるミッションは、はやくもイラクやアフガニスタンの二の舞になりつつあると述べている。また、リビアが無政府状態になる前に今回の軍事作戦を根本から見直す必要性を唱えている。実際にリビア内戦は膠着状態に入りつつある。労働党のShadow cabinet secretary of defenceであるジム・マーフィーは「NATOは事態を打開できておらず、もし英国が新たな軍事兵器・部隊を投入する計画ならば議会にそれをしっかり情報開示するべきである」と述べている。基本的には民主主義国家であっても軍事機密は一部の上層部が握っているわけだが、どれだけ情報をオープンにするかは国によって(国の成熟度によって?)異なるだろう。政権与党には政府を通じてそれなりの情報が入ってくるだろうが、野党だと防衛省の官僚とのコミュニケーションが与党に比べて少なくなる。少ない情報の中で新たな立法措置のための議論がまともになされる保証はない。

アパッチは攻撃用ヘリコプターとして1991年の湾岸戦争に投入され、米軍の戦力となった。アパッチを作戦に投入すれば標的への命中精度がより高まり誤爆を減らせるらしいが、マーフィーによればこのアパッチの投入によってリビア内戦が激化する恐れがあるという。また国連安保理決議1973では、飛行禁止区域設定、リビア市民の安全確保や即時停戦などを目的とした軍事介入が了承されたに過ぎず、アパッチ部隊展開によってカダフィ大佐を頂点とするレジーム(支配体制)を打ち倒す類の軍事行動が国際法上許されるかどうか議論が分かれる。そんな中フランスは既にヘリコプター部隊をリビア内戦に投入する決断を下していて、 この決定が英国議会にも影響を及ぼしている。労働党は、リビア内戦への同国の軍事介入をサポートしつつも野党としての監視により重点を置くとしている。与党である保守党の議員であるジョン・バロンは「アパッチが配属されるされないに関係なく、リビア内戦の激化は想定の範囲内であり、リビアのレジーム打倒が我々の軍事介入の目的だ」とまで述べている。保守党は国内向けには財政危機を煽り緊縮財政を強行しながら、対外的、とりわけコストを要する軍事行動には積極的のようだ。

現状の国連安保理決議ではNATOができることにかなりの制約があり、リビア市民を守ることはできるが積極的な戦闘行動をとれるわけではない。ドイツやロシアが棄権したほど安保理内で議論が分かれるような前回の国連安保理決議1973を上回る裁量権をNATOに与えるような新たな決議を得ることは相当難しいだろうし、実際可決したとしても誰が(どの国が)率先して地上部隊を派遣するのか見通しが立っていない。キプロスの沿岸に、万一に備え停泊している、駆逐艦や中型戦艦、さらには分遣隊からなるRoyal Navyを動かすことも視野に入れるべきとの見解もある。これらが動けばカダフィ軍への大きな圧力になるほか、NATOが少数の地上部隊の派遣という選択肢を得ることになる。

アフガニスタン抗争においても同様にNATOは地上部隊の派遣には極めて消極的である。理由は簡単で、犠牲者が増えるからである。コストについても同様で、Parry氏はリビアでの今回の作戦自体が安上がりになっているために十分な軍事行動をとれないことを危惧しているようだ。

リビアのスポークスマンであるMoussa Ibrahim氏は内務省ビルへの空爆は、ベンガジにいる反乱軍のリーダーに関する書類やカダフィ軍の資本がそのビルにあったためとしている。Ibrahim氏は、「もし本当にNATOがリビアでの停戦を望んでいるのなら、彼らはカダフィ側と何かしらの会談や和平交渉を行うはずだが、実際にはリビア市民を守るという大儀の下でリビアのレジーム打倒を行っている(目指している)」と付け加えている。このような連合軍によるリビアへの軍事ミッションは2003年のイラク戦争時に米国によるイラク侵攻が行われた際の手法とさして差がない。