2011年6月3日金曜日

ハーパー内閣(2)

今年3月にステファン・ハーパー内閣への不信任決議案が156対145で可決され、ハーパー首相は下院を解散。今年5月上旬に下院の選挙が行われた。

選挙前の政党支持率はハーパー首相率いる保守党が37%、新民主党が30.6%、野党の自由党が22.7%の支持を得ていた。保守党以外の3党は2,3年以内に緊縮に舵をきることを公約にしている。過去に政権の座についたことのない新民主党は法人税増税と政府支出の増加(中福祉中負担というのが適切だろうか? トロント生まれのハーパー氏はこれを批判しているのでハーパー氏にとってはこれでも財政出動が足りないということなのだろう)、保護貿易さらにはCO2排出削減のための貿易システム構築などを掲げる。ハーパー首相は選挙期間中に他党への激しいネガティブキャンペーンを展開し、保守党こそがカナダ国民にとって最善の選択であると主張している。ハーパー内閣のその他の政策としては中絶禁止法案の可決(目下のところカナダでは中絶は合法とされている)や軍需産業への支出拡大が挙げられる。さらにはこれまでは政党へは個人献金だけが許され、政党への企業献金は禁止されていたがこれについての条件緩和なども行われる。


2006年に保守党が与党になって以来、ハーパー内閣は適切な経済政策をとってきた。個人消費を促すために、消費税の段階的引き下げを行ってきた。同国の産業にとって不利となるClimate change legislationを凍結してきた。また2008年の米国の金融危機の影響で多くの先進諸国の経済が悪化していく中、ハーパー内閣は政府の負債を大幅に増やす積極財政を継続させカナダ経済をリセッションから抜け出すことに成功させており、同国経済は先進国の中で極めてよい状態にある。
ハーパーはカナダのジョージ・W・ブッシュだと主張する人たちもいるのだが、明らかに経済政策において両者は異なる。ブッシュやレーガンが新自由主義で貧富の格差拡大や、富裕層優遇政策、挙句の果てにはサブプライムショックや金融危機などを起こし米国の失業率を10%にまで増加させたのに対し、ハーパーは積極財政にて経済を活性化させている。

注目の選挙結果は保守党が下院308議席中167議席を獲得し勝利、102議席を獲得した新民主党は最大野党になった。選挙前は77議席保持していた自由党は34議席と大幅に議席数を減らした。自由党党首のマイケル・イグナティエフ氏は敗北を認めている。トロントより出馬したイグナエフ氏自身も落選してしまった。4議席獲得するに留まったBloc Quebecoisも惨敗であり、その党首も落選している。(党首落選は2007年でのオーストラリアでの選挙を彷彿とさせる。)しかしながら獲得議席では保守党が約40%であったのに対し、自由党は約20%と、議席の差ほどには差がついていないことも留意しなければならない。

公約が実行に移されるかどうかだが、ハーパー内閣が消極的であった環境法への対応が気になるところである。前回述べたように、アルバータは世界第2位の石油埋蔵量をほこる。環境法の可決は石油輸出産業にとってマイナスになるためカナダの国益のためには可決を避けたいのだろう。


国際エネルギー機関(IEA)によれば2008年のカナダにおける原油産出量はおよそ100メガトン(Mt)であり米国の40%、日本の産出量の300倍に相当する。米国は人口が多いために原油の消費量も多く、輸出量は1.4メガトンとオーストラリアの1割程度しかない。それに対してカナダはおよそ70メガトンの原油を輸出できる資源大国である。またノルウェーの原油産出量がカナダに匹敵する(約100メガトン)ことは注目に値する。ノルウェーは産出量の9割にあたる90メガトンもの原油を輸出している。これがノルウェーがユーロに非加盟である理由かもしれない。もしユーロに入ってしまうと通貨下落のメリットを受けることができないので原油輸出に不利に働くのである。ノルウェーはかなりの貿易黒字国であり、その理由が今までわからなかったがこれが一つの要素であるといえる。

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