2011年2月17日木曜日

エジプト動乱(2)

米国の量的緩和第2弾(QE2)は世界的に穀物や原油などの価格に影響を与えているようだ。いくら金融緩和しても米国内に投資先がないとなると、海外に目が向かう。貨幣市場というのは主に短期の金融資産の取引のための市場であり、コマーシャルペーパーや銀行引受手形などが取引され満期も1年未満であることが多い。今回のQE2がこの貨幣市場を通して世界的に流動性をもたらしたと考えられる。特にエジプトはキャリートレード(通貨の金利差を利用して利益を狙う取引、すなわち金利の低い通貨を調達して金利の高い通貨に両替し運用すること)にとっては格好の場所らしく、かなりの低金利でドルを調達し高金利の債券などを買っていたといわれる。同国の中央銀行の金利は最低でも9.75%をキープしていたようだ。

一見してエジプトというとナイルの賜物として食料供給は高いと思われるが、実際はかなりの輸入依存国であり2009年の食料輸入額はその国のGDPの4.8%を占めている。したがってエジプトポンド(EGP)の下落は同国における食料品の価格高騰の大きな要素になったはずだ。

これによってエジプトでは高いインフレ率とそれへの対処の遅さのために国民が政府に不満を抱くようになったと考えられる。そしてチュニジアでの革命を契機としてエジプトでも反政府運動が活発になったようだ。個人的には、この米国FRBのQE2は「米国の国益」という観点からは当然であると考える。というのも政治家は自国民の生活や安全を保証する義務があるからであり、自国が不景気に陥っていて失業率も改善しないというときに政治家が金融緩和などの景気対策をしないというのは職務怠慢に等しいからである。その行為を非難するのはやはり内政不干渉の原則に反するといえるだろう。ただ一つ問題なのは米国が財政政策を過小評価していて、積極財政をためらっているということである。金融政策と財政政策は平行させるべきなのだ。そうすれば市場にお金を供給してもそれを国内の投資にまわすことができる。(ちなみにQE1では米国は顕著なインフレを経験しなかった。新規発行ドルが貨幣市場や債券市場に流れてしまったからである。)

ホスニ・ムバラク大統領は任期途中での退任を決めている。英国に対し、彼とその同僚のロンドンにある銀行口座(にある資産)を凍結するようにエジプトから公式に要請があったらしいが、英国外務大臣ウイリアム・ヘイグは英国国内法の観点から何かしらの不法行為もしくは資産乱用がない限りは 凍結はできないと述べている。口座の捜査の時期と程度はEUの金融大臣が決め、実際の捜査はSerious Organised Crime Agencyが行うようだ。野党である労働党は、速やかに口座の調査をすべきとしてキャメロン政権を批判している。

ムバラクの後には軍が権力を得たようだがそのリーダーであるMohamad Tantawiは政治経済改革には消極的であるようだ。経済改革は政治を不安定にするということと彼が高齢であることがその理由のようだ。確かに急速な改革は国民生活を不安定にするだろうし、中央政府が力を失えば供給力や有効需要の創出など政府が本来やるべきことができなくなってしまう恐れもある。エジプトが依然として治安が良くない国であることも否定できないために、警察など公的な治安維持部門がしっかりしないことには更なるカオスを呼び込んでしまう恐れもある。その一方で軍部と密接な関係を持つ企業が市場を寡占状態にもっていってしまう危険性もある。水やインフラ、ガソリンなど生活に必要なものであり本来は民主的政府によって公的に運用されるべきものが、一部の軍部御用達企業に売り渡され高値で市民に販売されるなどのことがあればエジプト国民の生活はさらに厳しくなる。民主主義の歴史が浅いだけに治安回復と民主化には時間がかかりそうだ。

エジプト動乱(3)へ続く

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