2011年7月27日水曜日

ハーパー内閣(3)

今月22日、ノルウェーの首都オスロでの爆弾テロ事件とウトヤ島で起きた無差別射撃事件で多くの市民が犠牲になった。オスロでの死者は8人、ウトヤ島での死者は68人にものぼる。ウトヤ島では与党の労働党が党大会・集会のようなものを開いていて、そこを狙われたようだ。実行犯はキリスト教原理主義者のようであり、「多文化主義によって歪められたノルウェーを元に戻すために、またイスラム教徒の侵略からノルウェーと西欧を守るために今回の犯行に及んだ」という。ノルウェーの労働党は移民政策に関して比較的寛容であり、その政策を転換させることが容疑者の犯行動機だったと考えられる。たった一人の原理主義者の無差別攻撃によって多くの市民が犠牲になったことは痛惜の極みであり、深く哀悼の意を表したい。

オスロでは今月25日にオスロで追悼集会が開かれ、イェンス・ストルテンベルグ首相が「悪は一人の人間を打ち負かすことはできるが、ノルウェー国民全体を打ち負かすことはできない」と述べ、さらに集会に参加したホーコン皇太子は「今夜、通りは愛で満たされている」と述べている。この追悼集会には少なくとも10万人が参加し、参加者は赤や白のバラで哀悼の意を表した。

もともとノルウェーは治安の良い地域が多いようで、ストルテンベルグ首相が公共交通機関を利用したり、閣僚が警護員なしにオスロの町を歩くことも珍しくは無かったようだ。今回の事件で平和な町のイメージが損なわれる可能性はある。ましてや移民の増加で、治安に多少なりとも影響を及ぼしてくるのは必至だろう。480万人の人口をほこるノルウェーでは1995年から2010年までの15年間で移民の数が3倍になり、その数が50万人にも達している。一部の有権者が移民増加政策を危惧するのも無理は無い。

カナダのスティーブン・ハーパー首相は声明を出し、カナダはこの残酷で愚かな暴力行為を糾弾し、被害者や事件を目撃された方など全ての方へお悔やみを申し上げると述べた。ハーパー首相はカナダ国民を代表し、ノルウェーのストルテンベルグ首相とノルウェー国民に弔意を表した。カナダというと多文化主義を政府が公式に採用していることで有名だ。歴史的・世界的にはインドが多文化主義の先頭を走っていたのだろうが、欧米においてはカナダが1963年の二文化主義を検討しだしたことが最初だろう。(私の立場では、米国は他民族国家ではあるが多文化主義とはいえない。あくまでも英語が事実上の国語であり、スペイン語の公用語化は一部の州を除けば行われていない。日常生活・公の活動の場面でも英語の使用が当然となっている。)その後カナダではピエール・トルドー内閣において、1971年に二文化主義の採用で英仏2ヶ国語を公用語にし、ブライアン・マルルー二ー内閣の下で1986年に雇用均等法、その2年後には多文化主義法(Canadian Multiculturalism Act)を制定し世界における多文化主義の一種のモデルとなっている。CMAでは、多文化主義がカナダの遺産であることの認識それを保護すること、カナダ原住民の権利の尊重、(依然として英仏が公用語だが)英仏以外の言語の使用の可能性、人種・宗教に関係なく権利の平等、文化的マイノリティーの人たちが彼らの文化を享受することなどが盛り込まれている。

今年5月に行われた総選挙で、下院308議席中102議席を獲得し躍進した新民主党であるが、その原動力となった党首のジャック・レートンが病気のために一時的に党代表を退くことが決まった。今月25日にレートン氏本人からその発表があり、新たな癌を患い、その治療のために代表を一時的に辞任すると決定した。レートン氏は以前から前立腺癌と闘っており、また最近では骨盤骨折から回復したばかりだった。そこに新たな癌が発見されたために、政治活動よりも治療を優先することになった。

レートン氏が会見した後にハーパー首相がレートン氏と会談し、「レートン氏のあらたな癌と闘う勇気とその決断に励まされた」と述べた。レートン氏は今年の9月中旬から下旬には下院に戻ってくると述べ、ハーパー首相もそれを待ち望んでいると述べた。

そのハーパー内閣であるが、最近は欧州に圧力をかけ始めているようだ。
ハーパー内閣はオイル産業と良い関係を保っているようで、・・ 欧州でのカナダのロビー活動は環境保護に熱心なEUの議員にとっての脅威となっている。2年前よりこの傾向が顕著になり、世界の主要都市で、カナダ外務省によって結成されたOSTがかなりの規模のキャンペーンを展開している。彼らの活動は、国際ジャーナリストに働きかけタールサンドのメディア印象を高めたり、EU議会議員のためにアルバータへの視察旅行をセッティングしたり(もちろん公費)さらには猛然と反タールサンド政策へ反対するロビー活動を行ったりと多岐にわたる。英国政府はこの活動に圧倒されて、反タールサンドへの署名を拒絶するまでにいたっている。

OSTは他の大規模石油会社とも良い関係を保ってきているようで、BPやシェルなどと何度も密かに会談し、石油産業にとって利害が一致するような政策を練っているようだ。石油会社であり、国際石油資本のひとつであるトタルは2020年までに200億USドルをアルバータのプロジェクトに注ぐことを表明している。ハーパー首相自身も2010年6月にパリでサルコジ首相との会談の後に、トタルのCEOと密かに会談している。ハーパー首相には壮大な構想があるんだなと思う。2040年までにカナダを世界のエネルギー供給国として超大国の仲間いりを果たそうということだろう。
 
カナダはEUにおけるクリーンエネルギー政策をつぶそうとしている話もあるようで、彼らのエネルギー政策として、再生可能エネルギーではなく、化石燃料、しかも原油からタールサンド(粘度の高い石油を天然に含む砂)へのシフトを狙っているとも考えられる。このタールサンドはアルバータ州にみられるどろどろの瀝青で、石油への転換はかなりコストがかかり、工場近隣の住民への影響も懸念される。

欧州側は、対抗方針を打ち出し、クリーンエネルギー使用を全面に出してカナダからのタールサンド輸入を制限するようだ。この方針は、欧州でタールサンドに投資している石油企業がその分野から撤退するのを早める結果となる。また米国においても、キーストーンXLパイプラインが、カナダのアルバート州から、アメリカのイリノイ州やオクラホマ州へ原油をおくるパイプラインであるが、現在はヒラリー・クリントン国務長官らによる再調査・検討が行われている。